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花咲き山物語より抜粋

2012/08/11
        べろだしチョンマ 長松とうめと

     
                  作者 斉藤隆介
 

     私自身 とても心打つものがあり ここに 一部引用します。よろしくね。
    長いですが 最後まで お付き合いください。


  千葉の花和村に べろだしチョンマ という オモチャがある。


   チョンマは長松が なまったもの。 このトンマな人形の名前である。

  人形は両手を ひろげて 十 の字の形にたっている。 そして背中の輪をひくと

  眉毛が ハ の字に下がって ベロッ と舌を 出す。見れば誰も思わず 吹き出さ

  ずには いられない。

   長松は もう 十二で アンちゃんだから  妹のめんどうを みてやらなくちゃならない。 

  うめはまだ 三つだし 霜焼けがひどいから 寝るときと起きるときには 必ず泣く。

  霜焼けはくずれて オケの中の湯に手を ひたし 手に巻いたキレを ぬらしてから

  とるんだが ウミでベットリくっついているから 泣くのも仕方ない。

  取ってやる長松の方が 泣きたいくらいだ。


   けれども この頃は 父ちゃんも母ちゃんも 忙しそうなので ウメの面倒をみて

  やるのは 長松しかいない。 あるとき長松はうまいことを 見つけた。

  湯の中のウメの手から 巻いたキレをはがすとき  ウメがビーと泣き出しそうに

  なったら 言うのだ。



   「ウメ 見ろ あんちゃんのツラ」


  そして 眉毛をカタッ と ハ の字に下げて ベロッ とべろを出してやるんだ。


  すると ウメは 今にも泣き出しそうに 涙がいっぱいたまった目で 長松の顔

  を 見ると そのまま ケタケタと笑い出してしまう。

  笑い出さずにはしいられない。
  
  そこを すかさず 素早くキレをひっぱかしてしまうのだ。

  ウメが泣き出す暇はない。それでもウミがたくさん でて あんまり 痛いときは

  ウメはポロポロと涙を頬にこぼしたが やっぱり ケタケタと笑い声をあげずには

  いられなかった。アンちゃんの顔は それほど マヌケタ ツラになるのだ。

ウメの手をよく 湯でぬくめてから 油薬をぬって新しいキレで巻いてやると 

 ウメは楽になるのか 床に入ってスヤスヤと眠る。


  けれど 長松は眠れない。
       


  子供でももう十二だから 少しは 父ちゃん 母ちゃんや村の衆の心配ごとがわかる。

  大人たちは ネング の相談をしているのだ。 今年は急に ネングを たくさん

  取られることになって 大人たちは 困っててるのだ。

   今年も去年も洪水や地震や日照りやがあって  米も麦もロクロク取れないのに

  殿様はネングを前よりもっと 出せと言ってきている。自分で食う米も麦も

  なくなって どうにも 出せな   い者が増えたから 

  少しでもある者から 根こそぎ 持って行ってしまおうと しているのだ。

           
       

       もうこうなったら ハア ちょうさんだ。


       いっそ打ち壊してでも やっか。


       ごうそするか。

       それより 誰かが江戸へじきそすれば。

       父ちゃんを夜 夜遅くたずねてくる おじさんたちは じょうだんとも 本気

  
       ともつかない調子でそんなことを言っては タメイキをついた。

  
       そしてまた声が低くなって ヒソヒソ話はいつまでも続く。長松は たびたび

       聞いているうちに聞きなれない言葉も だだんだんわかってきた。

       
               

      ちょうさんとは田んぼも家もほうりだして よその国へ逃げていくこと。

      うちこわしとは 町の米屋におしかけて 米蔵をぶち壊して食う米を

      取ってくること。

       ごうそとは殿様の所におしかけること。
          
      じきそとは将軍様へ殿様のやりかたを 言いつけにいくことらしい。 

      そして どれもこれも つかまって ローヤに入れられたり 首を切られたり

      するおそろしい バツがあるらしいのだ。


       



       長松はナンドのウメの隣の 床でヒョウキンな目玉をむいて 暗い天井を

      見つめながら 父ちゃんのひそひそ話を聞いている 。

         
      だがいつも知らないまに眠ってしまっていて おじさんたちが いつ帰ったか

      知ることができなかった。

     
       ある朝起きてみたら 父ちゃんがいなかった。母ちゃんに聞いたら

     「知ねえ 父ちゃんのいねえこと誰にも言うんじゃねえど わかったぺ」   

      と 怖い顔をしていった。

      父ちゃんは帰ってこなかった。夜中にヒソヒソやって来たおじさんも

     誰も来なくなった。


      そして何日もたったある晩 表の戸がドントン叩かれた。
     
    
     母ちゃんは寝間着のまま床の上に起き直って 右に長松 左にウメをヒシと

     抱え込んだ。真っ青な顔をしていた。戸は 蹴倒され 役人がなだれこんできた。

     「名主 木本藤五郎妻 ふじ そのほう 夫藤五郎が おそれおおくも 江戸将軍家へ
   
     じきそに及ぶため 出府せしこと存知おろう」  


     肥った役人が憎憎しげそうに そういって 六尺棒で母ちゃんの肩をグイと突いた。


     ウメがわっと泣き出し  長松は役人をにらんでやった。


          

       父ちゃんは江戸へ行ったんだ。 将軍様に会ったんだ。

      「知っていました 覚悟はしてますだ、ご存分に」 

      母ちゃんの腕に力が入って 体のふるえが 長松の体にも  伝わってきたが

      長松は母ちゃんの声がふるえていないのが気にいった。

        

       長松は刑場ではじめて 父ちゃんを見た。
    
       父ちゃんは長松たちと同じように  白い着物を着せられて        
 
       もう高いハリツケ柱にしばられていた。「父ちゃん」と長松が叫ぶと

       ヒゲぼうぼうの 父ちゃんが 高いところで にこっと 笑った。

       とてもやさしい目だった。

       竹矢来の外にぎっしり詰めかけた 村人たちの念仏の声が いっそう

       高まった。母ちゃんも長松も そしてたった三つのウメまでが 次々

      引き廻しの騾馬の背中から下ろされると  次々十字のハリツケ柱に

      押し上げられて両手両足  を縛り上げられた。ウメは母ちゃん 母ちゃん

      と火がついたように泣き叫んだ。 竹矢来の西のはしが
 
      ユッサユッサとゆれはじめた。

       村の人たちの怒って血走った目や ゆさぶるふしくれたった手やが

      高い長松のところからは よくみえた。棒をもった役人たちが そっちへ

      数人走っていき 一番えらい役人があわてて はじめぃ と叫んだ。 

     突き役が二人 抜き身の槍を朝日に光らせながら ウメのハリツケ柱の方へ

     ノソノソと近よってきた。まず高いウメの胸のところで 槍の穂先をぶっちがいに

     組み合わせた。穂先がぎらぎら 光った。


     「ひぇーおっかねえ」ウメがむしをおこしたように叫んだ。このとき長松は思わず

      叫んでしまった。

     「ウメ おっかなくねえぞう 見ろ あんちゃんのつらぁっー」

    そして眉毛をカタッと   ハ  の字に下げてベロッとベロを出した。
 

     竹矢来の外の村人は 泣きながら 笑った  笑いながら泣いた。

       
      長松はベロをだしたまま 槍でつかれて死んだ。   
   



     長松親子が殺された刑場のあとには 小さな社が建った。役人が壊してもいつか

     また建っていた。



            そして命日にあたる一日には縁日が立って ベロダシちょんまの

            人形が売られて親子たちは子供に買ってやった

           千葉゜の花和村の木本神社の縁日ては 今でもベロダシちょんま を

           売っている。
                              
        

  いかがでしたか? 涙がとどめなく流れました。美しい物語ですよね。



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08:56 つれづれ | コメント(14) | トラックバック(0)
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